大阪高等裁判所 昭和54年(く)78号 決定 1979年8月01日
少年 K・K子(昭四〇・二・一生)
主文
原決定を取り消す。
本件を大津家庭裁判所に差し戻す。
理由
本件抗告の趣意は、少年作成の抗告申立書記載のとおりであるから、これを引用する。
所論は要するに、少年に対する原決定の処分は性急で不当に重いから、試験観察ないし保護観察などの中間的措置あるいは在宅による保護処分が相当である、というものである。
そこで一件記録を調査し、当審における事実調べの結果を参酌して検討するに、
一 本件は、少年が(一)昭和五四年四月中旬、素行不良の友人A子、B子の二名と三、四日間家出し、この間友人宅やスケート場で知りあつた有職少年の勤務先寮に宿泊し、(二)同年五月六日、右B子と遊んで帰宅時間に遅れたことから、そのまま同月一四日まで右寮に宿泊し、(三)同年同月二五日右A子と一緒に家出し、友人宅に四、五日泊つた後翌月一四日同行状の執行を受けるまで成人の暴力団関係者宅に泊つていたことから、正当な理由なく家庭に寄りつかず、交遊関係その他現在の環境に照らして将来罪を犯すおそれがあるとのぐ犯の事案であつて、原審はこれに対し、初等少年院送致決定(一般短期処遇勧告)をしたものである。
二 ところで、少年は中学二年であつた昭和五三年の夏期体暇中、悪友にさそわれるまま実母の制止にもかかわらず夜遊びにふけり、同年九月と一二月の二回、友人と無人小屋などに外泊してシンナーを吸飲したため補導されたことがあり、中学三年になるや前記三回の家出と外泊をくり返し、最後のときには家庭へ戻る気さえなく、年齢を偽つて働くことまで考えるに至つていたこと、および家庭の保護能力の欠如、少年の交友関係の悪さ、少年の審判時までにおける自己中心的で無反省な言動、向上意欲の欠如等からみて、原審判時における少年のぐ犯性の高進は軽視しがたいものがあつた。
三 しかしながら、本件事案の内容、性質、ことに少年は外泊しているとはいえ不純異性交友もなく、シンナーの吸飲以外の罪を犯したことのない未だ一四歳の中学三年生の少女のぐ犯に過ぎないこと、そして少年は本件による観護措置につづく本件送致決定および現在までの少年院での収容処遇によつて、過去の生活態度を反省し、母の言いつけを守り、交友関係を清算して、家庭と学校の生活を再建するとともに高校進学をめざして再出発するとの決意を固めていること、他方実母は少年院において少年と面会後少年との意思の疎通も回復し、一層新たな決意のもと手許で指導監督する意欲にもえており、少年の秀れた兄姉ともども少年の更生と高校進学のために熱意と協力の意思を強く抱いており、また母の妹においてもその家族ぐるみで少年の更生に協力することを誓つていること、そして高校進学のためには一日も早い復学が必要であること、更に少年は未だ試験観察や保護観察の経験がないこと等の諸事情を総合勘案すると、少年をこれらの中間的措置や在宅保護処分に付して、実母、兄姉、叔母家族の協力のもと、その自力更生と進学のための有効な機会を与えることこそ、少年の健全な保護育成を図るうえで相当と認められるのであつて、これを初等少年院に、例え一般短期処遇に終ることがあるとはいえ収容することは、現段階においては時期尚早の感を到底免れ得ず、さらに記録を調査しても未だ原決定の相当性を首肯するに由なく、結局原決定は著しく不当であると断ぜざるを得ない。
よつて、本件抗告は理由があるから、少年法三三条二項、少年審判規則五〇条により主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 原田修 裁判官 池田良兼 近江清勝)
〔参考〕 抗告申立書
抗告理由
今の私の処分について私は大きな不満をもつています
なぜ私は保護観察も付かず鑑別所に入つて少年院へ直通なのかわかりません
なぜ裁判官は私にチャンスというものをあたえてくれないのですか
もう一度家に帰るチャンスが私にはほしい
それから私と一緒に鑑別所に入つた友だち あの子は私より家出の回数が一回少ないだけであとは私と同じことをやつて警察につかまつたのです
だのになぜあの子は保護観察で家へ帰れて私は帰れないのですか
なぜ私だけそんなに処分がきついのですか一回の差はそんなに大きいのですか
なぜ2人の処分にそんなに差があるのですか
私は鑑別所を出て家へ帰つたらちやんとまじめに学校へ行つてみんなと同じようにまじめにするつもりでした
私に少年院という処分を言つた裁判官はなぜか私のまじめになるという決心をくずしていくようです なぜ私にはチャンスがあたえられないのか
なぜ保護観察や試験観察などにしてもう一度これから先の生活を見ようとしてくれないのですか 私にはわかりませんどうしてなのですか
私にはこの処分はきつすぎる 裁判官は私の将来のことを考えてここへ入りなさいといわれたけど将来のことを考えてくれていたらどうせなら少年院へ入るより今の私のまじめになるという気持ちを信じてチャンスをあたえてほしい 家へ帰らせてほしい 今なら自信を持つていえますまじめになると
家へ帰らせて下さい もう一度審判をして下さい
〔編注〕 受差戻審決定(大津家 昭五四(少)七七九号 昭五四・九・一〇保護観察決定)